2013年12月16日月曜日

話題の北本市、北本市長について

(埼玉新聞)北本市・住民投票 新駅「反対」が過半数。計画白紙撤回へ

今日は全国ニュースでも、この話題が取り上げられていますね。

僕が北本市とちょっとした関わりがあるため、このおもしろい住民投票について簡単に解説させていただきます〜。

今回の北本市での住民投票は、かなり異例づくしの事例となりました。

【異例1. 新駅「推進派」の市長が住民投票の実施を決定した】

ふつう住民投票というのは、行政の施策に反対する住民、市民団体などが「住民投票を実施せよ!」と声をあげて、それを行政や議会が突っぱねるというのが基本構図ですが(今年5月の東京・小平市での住民投票はまさにこれ)、北本のケースは、市長主導で住民投票が行われました。これは極めて珍しい事例といえます。

【異例2.「新駅はいらない」という投票結果】

駅は生活インフラの基盤で、「ないよりあったほうがいい」と考えるのがふつうだと思います。

特に北本のようなベッドタウンの人々にとっては、少しでも自宅に近いところに駅ができれば嬉しい、さらにその駅周辺に商業施設ができれば更に嬉しい、と考える人が多いだろうと思うのです。

しかし、住民投票結果はまさかの「反対」多数。新駅建設の市の財政負担が50億超と、北本市の財政規模から見ると非常に大きい(北本市の今年度予算は203億円)ことなどを市民の皆さんは問題視したようです。

この結果は、北本市民が新駅ができるというわかりやすい目先の利益をとるのではなく、将来の財政破綻というリスクの回避をとったとみることができると思います。

行動経済学の研究では、人間は短期的な利益を過大に評価し、中長期のリスクを過小に評価する傾向があることが明らかにされているのですが(cf.カーネマン『ファスト&スロー』早川書房)、北本の住民投票の結果それとは逆でこれまたびっくりしました。

【異例3. 市長が即「白紙撤回」を表明】

北本市長は、住民投票の結果判明後の記者会見で、新駅計画の「白紙撤回」を表明しました。

住民投票は、法的拘束力がある「拘束型」と、法的拘束力がない「諮問型」に分けられるのですが、北本の住民投票は後者です。

住民投票をやったからには結果を尊重するのが当たり前ですが、この結果には法的拘束力がないので、極端にいえば掌を返して「これは真の民意ではない」と言ってごねたっていいわけです。

調べてみると、北本市の新駅建設は1980年代からの悲願だったようです。市長も選挙公約の目玉にしていたとのこと。

これなら尚更、住民投票結果には抵抗してもいいはずです。

【なぜ市長は住民投票を行った?】

ではなぜ北本市長はリスクを負って住民投票を行い、さらに新駅「反対」の結果を即座に受け入れたのでしょうか。

有力な仮説は、「市長は負けるとは思っていなかった」というものでしょう。

しかし、僕はこれは違うと思います。ふつうの首長であれば負ける可能性が少しでもあれば、わざわざ住民投票をするというリスクは冒さないでしょう。

僕の仮説はシンプルで、北本市長が「住民の意見を行政運営にできるだけ取り入れるべき」という信念の持ち主だから、というものです。

そんな綺麗事かよ!笑 って思われたかもしれませんが、これには理由がありまして・・・。

僕のこの仮説は、北本市長がこれまでにやってきた取り組み、そして市長と直接議論したときの印象に寄るものです。

僕は今年3月に、埼玉新聞の小川社長にご紹介いただいて、北本市長にお会いし、北本市で新たに始められた「きたもと市民会議」という取り組みについてのヒアリングを行いました。

きたもと市民会議」は18歳以上のすべての北本市民を対象とした、政策のウェブ人気投票を行い、そこで上位となった政策を次年度の予算案に組み込むという、前例のないめちゃくちゃラディカルな取り組みです。

こんなことをやっちゃう市長ってどんな人だと思ったら、やっぱり面白い方だったんですよね。

ヒアリングのなかで市長の信念がもっとも現れていると思ったのは、2012年のきたもと市民会議の結果で、「北本駅前広場の防犯カメラ設置」という政策がトップとなったときのお話でした。

市長は当初「駅という市の玄関口に防犯カメラを置くことは市のイメージにとって良くない」と思っていたそうなのですが、きたもと市民会議の結果を受けて、警察関係者や職員などと議論を重ねて、「市民の言うとおり、防犯カメラはあったほうがいいと思い、意見を変えた」と仰ってました。そして防犯カメラの設置予算を2013年度予算に組み入れたそうです。

僕との議論のなかでも「間接民主制の仕組みのなかで、市民の意見を直接的にどこまで取り入れていいのか。難しい問題だけど、ギリギリのところに挑戦したい」と仰っていたのがとても印象的でした。

今回の住民投票も、市長のこのような考えを背景にしているのではないかと考えています。

【最後に】

朝日新聞が今回のニュースを「石津賢治市長は建設推進の立場から、巨費投入にお墨付きを得ようと市民に判断を委ねたが、目算が外れた」と報じています。
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この朝日の分析こそが通常の見方だと思いますが、僕はあえて、市長は勝てる目算なんか関係なしに、ただ純粋に、「市の将来を左右する一大事について住民の意見を聞かないなんてあり得ない」という信念から住民投票を行ったはずだ、と言いたいです。

北本市長は、こんな政治家らしくない綺麗事で説明したくなるような、そんな方でした。

(最後まで書いてみて、なんかファンレターみたいな内容になってしまったことに気づく。トホホ。)


※写真は今年3月に撮影したものです。右側が石津賢治 北本市長、中央が松原、左側が小川秀樹 埼玉新聞社 社長。


2013年8月8日木曜日

iPadと障害者差別解消法。その次は。:DO-IT Japan公開シンポジウムの感想

最近また夏らしくなってきましたね!

きのう僕は、東大の先端研で行われた、DO-IT Japanの公開シンポジウムに行ってきました。

DO-ITとは、障害や病気を抱えた小中高校生,大学生の高等教育への進学とその後の就労への移行を支援し、そのなかから将来の社会のリーダーとなる人材を養成することを目的としたプログラムです。

DO-ITの本部はアメリカのワシントン大学にあり、この理念に賛同する研究者などによって、世界中に取り組みが広まってます。DO-IT Japanは、東大先端研の中邑賢龍先生の研究室が中心となって運営しています。※今年5月に朝日新聞に掲載された中邑先生のインタビュー「デコボコを愛せよ」はかなりグッと来る。オススメです。

僕は、歳の離れた友人(高校2年生)がDO-ITのスカラープログラムに選抜された関係で、プログラム期間中だけ彼のサポートをしておりました(このプログラムの倍率は10倍近いらしい!)。DO-ITのことも彼を通じて初めて知りました。

昨日のシンポジウムは、このスカラープログラムの報告会と、シンポジウムが一緒になったようなもので、僕は時間の関係で13時半〜15時までの「話題提供」のみを見てきました。

僕が面白かったのは、読み書きに困難がある学習障害の小学生が、iPadを使うことで、授業についていけるようになり、宿題を出せるようになり、さらにはテストの成績が上がって偏差値も上がるという事例です。

紙に字を書くことができない子でも、タブレットで字を入力することができる子は結構いるようなんです。

学校で紙で渡された宿題をデータとしてタブレットに取り込んで、そこに回答を入力する。その回答が入ったデータをプリントアウトして教師に提出する。これを学校に認めてもらうことができれば、その子は授業についていけるようになるのですね。

シンポジウムの報告では、A4一枚の紙の宿題をこなすのに2〜3時間かかっていた小学生が、iPadを利用することで20分に短縮できたという話がありました。いやはやiPadさんはこんなところでも大活躍だったのですね〜。ですが、学習障害を持った子どもたちがみんなこのような特別措置が受けられるかというと、当然そんなことはないわけです。

iPadを学校に持ち込むというのは、多くの小学校では認められていません。これが許可されるためには、その子どもに限っての特例措置として学校が認めるだけの「合理的な理由」が必要になります。

そのデータをつくるために、学習障害などの子どもたちに協力してもらって様々な実験をしているのが先述した東大先端研の中邑研究室なわけです。※DO-ITもそのような支援対象の子どもたちにリーチするための方法の一つのようです

ただ、中邑先生がデータを持って「この子はiPadを使うことで読み書きの困難を克服できます」といっても、なかなかそれを認めない学校も多いみたいです。中邑先生はシンポジウムで、校長と大喧嘩して学校を飛び出してきたことが何回もあると言ってました。これまでは「合理的な理由」を持ちだしても学校側が拒否すればそれで泣き寝入りするしかなかったわけです。

しかし、その状況が今年6月に可決成立した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」で一気に変わろうとしています。※法案についてはこちら。あと、シノドスに掲載された弁護士による解説が超充実してます。シノドスさすがだわ。

それで、この法律のフレームは、障害者が公的な機関に対して、「必要かつ合理的な配慮」を求めることができ、明確な理由なしにそれを拒否(否定)することは、「差別」として禁止されるというものです。

行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施にともなう負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」(7条2項)

ちなみに民間事業者等に対しては努力義務となっています。

事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」(8条2項)

ここで重要になるのは「必要かつ合理的配慮」なるものがどういうものか、ということですが、その定義は明確にはされていません。法律の目的には以下のように書いてあります。

障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資する」(1条)

要は、障害によって色んなことが不利にならないように社会で頑張っていこうぜってことですね。※ちなみにこの法律は民主党政権時代に原案が策定され、自民党政権で可決成立したという極めて珍しい法律です。これを成立させたのは自民党なんですよ。これは自民GJ。

この法律の存在で、先ほどの「障害のビハインドを補うために教室でiPadを使わせてくれぇ」という生徒の要望を学校が蹴ることは極めて難しくなるわけです。公的機関にはそういう強制力が働くようになる。民間事業者にも努力義務が課せられる。法律すげーよ、法律。

とりあえず法律ができたことは良かったわけですが、ここで大事なのは、行政機関も民間事業者も、必要かつ合理的な配慮をするのは、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合」なのです。

障害者本人やその周りの人がそういう意思表明をできなければ、別に何の対応をとらなくてもよいということですね。もちろん、一部の意思表明をできる人たちがリードしていけば色々な仕組みが整えられていくわけですが、世の中には表明する力を持たない障害者も多いわけで・・・。

この法律が出来た後も、「声なき声」をどう拾い上がるかというのは社会的な課題で在り続けるということです。というのも、今回のDO-ITのシンポジウムを聴いていて思ったのも、まさにこの「声なき声」問題だったんですよね。

先ほどから挙げているiPadを使っていた小学生の例も、この子はDO-ITスカラーの選抜をくぐり抜けた子で、要は「選ばれた」障害者なわけです。おそらくこの子を支える周りの人も教育熱心な方なのでしょう。

世の中には、学習障害を抱えたまま、親や学校からの支援を受けられずにそのまま不登校になったり非行に走ったりする子もたくさんいるわけで、そういった子をどこまで拾い上げられるかが今後の論点になるでしょう。

学校システムからドロップアウトしてしまった子どもや大人への受け皿って、公的な枠組みが全然できていないところなんですよね。いまはNPO法人の「キズキ」とか「育て上げネット」などが頑張って担っている。もっと大きな枠組が必要なんですよ、まじで。

この2つのNPO法人を頼ってくる人たちのなかにも、学習障害や知的障害の人が一定数いると思います。その人達は多くの場合、すでに学校をドロップアウトして何年も経ってしまっているケースが多いはずです。そういう人たちをすくい上げる、あるいはドロップアウトする前に何とかして学習を継続できるような枠組みが必要ではないか。

近年、技術面でも法制度面でもサポートするための状況は整ってきているわけです。中邑賢龍先生は「タブレットPCの登場は障害児教育にとって革命だ」と言ってました。また障害者差別解消法の成立も日本の障害者政策史に残る快挙。タブレット&障害者差別解消法が揃ったあと、次の矢のアイディアが必要ですよね。

僕は、先端研の中邑研究室とキズキ、育て上げネットなどの支援機関が連携できるような体制が出来ればいいと思う。さらにそこに行政も入っていけばいい。まずは都内のどこかの自治体でパイロット的に協力連携のプロジェクトを始めたらいいんじゃないか。中邑先生も、キズキも、育て上げネットも当事者については様々な情報を持っているわけだから、その情報をつなぐプラットフォームが必要だと思います。

僕で良ければつなぐので、関係者の方興味あったらやりましょう。

最後に、今回DO-ITのスカラーに選ばれた友人との写真。なんか高2のくせに大人っぽく映ってるなぁ。それに引き換え僕の威厳のなさ・・・。


2013年8月4日日曜日

ラスボス級の先生方の前で・・・@早稲田

8月2日に、早稲田大の現代政治経済研究所でDPの講演をしてきました。
(研究所のウェブに告知が出ていました)

90分講演のあとに90分質疑応答という殺人的な時間配分。
人生で初めて用意したスライドが100枚超えました。
(スライドはこちら

この講演を企画してくださったのは、早稲田の齋藤純一先生。

「この日講演できますか?」と軽い感じで誘って頂いたので、
齋藤ゼミの勉強会かな~と思いきや・・・。

よくよく聞くと田中愛治先生が研究代表者となる科研費基盤Sのプロジェクトのメンバーが全員集まる勉強会ということで、これはどえらいことになったと・・・・

実際当日集まってくださった先生方の顔ぶれがやばすでした。

早稲田から田中愛治先生(投票行動)、齋藤純一先生(政治理論)、清水和巳先生(社会科学方法論)、船木由喜彦先生(ゲーム理論)、日野愛郎先生(比較政治)。

東大から古城佳子先生(国際関係論)。

首都大から今井亮佑先生(現代日本政治)。

さらに関西から、同志社の西澤由隆先生(計量政治)&飯田健先生、神戸大の品田裕先生(選挙研究)。

この他にも名刺交換できなかった先生方も複数おられ、さらに早稲田政経の助手や院生といった若手研究者の方々総勢20名が加わるという空間でした。

ここで講演90分、質疑90分ですからね。

「齋藤先生、内角高めに豪速球投げてきたな〜」と。

いやむしろ、もはやデッドボールで病院送りになりかねない状況だな、と。

こんな感じだったので、もはや緊張を通り越して吹っ切れました。

いつもの調子で3時間ぶっ通しで話し続けて・・・
なんとか乗り切りました。

いま振り返るとドラクエのレベル1の状態で、
いきなりラスボスのいる最終ステージにワープしたような感じでしたね〜。

我ながらよく生還したな、と・・・。

講演、質疑ともなかなか好評でした。

プログラム後に早稲田の先生に「一人前の研究者ですね」と声をかけていただいたのがうれしかったっす(こんなんで喜んでいるのはひよっこの証ですが・・・笑)。

計量・実証政治学の学術誌『レヴァイアサン』に投稿なさっているような先生がたくさんおられたので、DPのデータの計量分析についても具体的なアドバイスをもらうことができました。論文の量産体制に入らないとなぁ。

これからも早稲田にはちょこちょこ呼んで頂けそうなので、またそのときはご報告します。

ではでは。

2013年7月31日水曜日

「ひねくれ経済入門」―書評『「わかりやすい経済学」のウソにだまされるな!―経済学的思考を鍛える5つの視点』


どーも、ご無沙汰しております!

仕事で書評記事を書きましたので、こちらに一部転載します。経済学やり直したいな〜、ちゃんと勉強したいけどハードル高いな〜と思っている方にオススメの本です。

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 本書は、日本経済や経済政策に関心を持つ一般の読者を対象とした、経済学の啓蒙書である。しかし、本書のタイトルからもわかるように、その内容は世に数多ある「●時間でわかる経済学」といった類の「わかりやすい」啓蒙書とは大きく異なる。

 筆者は、本書「はじめに」で、「複雑な、ひねくれた経済の見方を身につけよう」と説く。筆者によれば、この「ひねくれた経済の見方」こそ、経済に親しみのない一般の人々が「わかりやすい経済学のウソ」にだまされないために必要となる経済学の素養である。

「ひねくれた経済の見方」を習得するためには、経済における「trade-off(二律背反)」と「逆効果・反作用」という2つの視点が重要になる。筆者は、特に後者の「逆効果・反作用」を一般の読者が理解することで「経済がぐっと面白く見えてくるはず」と述べ、「本書では、この『逆効果・反作用』に徹底的にこだわって、経済の見方を示していく」とする。

 本書の構成は以下のようになっている。まず序章(「わかりやすい」経済論議には罠がある)では、政治家などが唱える経済に関する「耳障りのよいワン・フレーズ提言」と、経済学の複雑な経済分析の理論の乖離について指摘し、一般市民が政策提言の「穴」と「罠」に気づく視点としての「逆効果・反作用」の有効性を示している。 

 続いて第1章(「わかりやすさ」にだまされないための5つの視点)では、「trade-off(二律背反)」と「逆効果・反作用」をもとに、筆者は経済を考える具体的な視点として、「合成の誤謬」、「時間軸のずれ」、「セクターの違い」、「モラルハザード」、「社会目的との相克」という「5つの視点」を提示され、その解説と、「5つの視点」が経済論議にどのように関わるのかが示される。

 本書の中心となる第2章から第5章では、「財政赤字」、「デフレ問題」、「TPP」、「雇用政策」といった日本経済の主要政策課題を取り上げ、豊富な統計資料を手がかりに「逆効果・反作用」と「5つの視点」を用いた政策分析が行われる。

 そして終章(「経済学的思考で探る日本経済再生戦略」)では、筆者の「マクロ経済政策では、デフレ脱却、長期的な経済成長の加速は望めない」という立場から、主にサプライサイドの構造改革に焦点をあてた日本経済再生のための方策が示される。

 このように理論・政策分析・政策提言というかたちに分けられる本書であるが、やはり白眉は、経済学に馴染みのない一般の読者を対象として、政策の「逆効果・反作用」に着目して経済理論を整理し、経済を理解するための「5つ視点」を提示した点にあるだろう。「5つの視点」のなかには、「合成の誤謬」や「モラルハザード」といった経済学の教科書で必ず言及される経済学の基本原理も含まれており、それらを理論的な精度は維持しつつもポイントを限定してわかりやすく解説している点にも筆者の力量が現れている。また3章(「金融緩和でデフレ脱却」は本当にできるのか?)の量的緩和の経済刺激効果に関する分析は、金融論を専攻する筆者の真骨頂といえよう。ただ、本章において筆者が「有効な円高是正・円安誘導策はなさそうである」としている点は、第二次安倍政権において円高誘導が一定の成果を見せ、それが日本経済成長の足がかりとなっていることを考えると議論の余地があるだろう。

 本原稿の執筆は、第23回参議院議員選挙(201376日公示、721日投開票)の時期と重なった。そのため評者は数週間のあいだ、選挙戦の趨勢と本書の内容を見比べながら毎日を過ごしていた。2012年の衆院選と同様に今回の参院選も、経済および金融政策が選挙の主要争点の一つとなったが、それに関する政治家および政党間の議論、そして国民レベルの議論の高まりはいま一つであった。その原因のひとつには、本書が指摘する「経済の複雑さ、難しさ」があるだろう。

 経済学の習得は難しい。社会科学系の大学生のなかでも経済学の教科書を読了している学生はそう多くないだろうし、そのうちで経済理論を正確に理解している人はより限られるだろう。筆者は本書あとがきで、「『5つの視点』を教育現場で試してほしい」と述べている。

分厚い経済学の教科書に立ち向かう前に(あるいは立ち向かって敗れた後でも)、本書で経済理論に裏打ちされた政策リテラシーを習得することができれば、経済政策、経済ニュースを理解する素地を身につけることができるであろうし、広く政策を議論するために前提知識も得ることができるだろう。一般の読者はもちろん、政策に関心を持つ社会科学系の大学生および大学院生に広く薦めたい好著である。

2013年1月25日金曜日

免許合宿日記1:お好み焼き屋のイケメンが、僕の部屋に乱入してくるの巻

1月24日から免許合宿で香川県観音寺市に滞在しています!

今日は男子寮でちょっとした事件があったのでご報告です。

今日は20時半まで学科の授業がありました。

食事をして21時過ぎに男子寮に帰ってきたところ、
男子寮の共同スペースに酔っ払っている子がいて
「一緒にのま~ん?」って誘われました。

仕事もあったので丁重にお断りして、
部屋に入ったところ数分後にドアが「ドンドン!」

彼が入って来ました(笑)

別に怖い感じの人でもなかったので
まぁいいかと思って僕の部屋で15分くらい二人で話をしました。

彼は兵庫県西宮に住む21歳(長髪のイケメン)。

「西宮で一人でお好み焼き屋やってるんすよ!」

と言うので驚きました。

20歳のときにお母さんの経営していたお店を継いだそうです。

これまではお母さんが車で仕入れ先を回ってくれていた
そうなんですが、お母さんのへルニアが悪化してしまって
彼が仕入れをするため免許を取りに来たそうです。

「母親の仕事を3年見て、1年修行してようやく焼けるようになった」
と言うお店自慢のお好み焼きは、

「大阪のとは全然違う。大阪は中まで火を通すから簡単だけど、うちのは中の生地をわざと半生状態にしてとろみを出すんです。焼けるようになるまで大変なんですけど、これが美味いんです!」

とのこと。

このほかにも肉屋と仲良くならないと卸してもらえないという
希少部位「あごすじ」をつかった鉄板焼きはコリコリとした食感がウリ。

牛の内臓のアブラを揚げた「あぶらかす」を入れたそば飯は、
独特の旨味と甘みがよくそばに絡んで絶品だそうです。

20席以上あるお店を一人で切り盛りするのは
めちゃくちゃ大変みたいなんですが、
本当にいまの仕事が好きみたいです

「将来はどういうお店にしたいの?」

と聞いてみると、

「自分で切り盛りできる範囲でお店を続けていきたいです。
いい奥さんを見つけて一緒にお店をやれたら最高です。
子どもが好きなので、自分の子どもにお好み焼きを食べさせたいです」

とめっちゃ笑顔で返されました。
いい夢です。

それを聞いて思わず

「俺の夢ってなんだっけ・・・」と自問自答。

いまの僕は彼のようにはっきりと語れるような夢は持てていないです。
彼に僕の夢を訊かれなくてよかったと思ってしまいました。

15分くらいしか話はしませんでしたが、
この免許合宿の忘れられない思い出になりそうです。

もちろん、彼のお店、聞いておきました!
西宮駅すぐの「ゆうゆう」だそうです。

お好み焼き、あごすじ焼き、そば飯、
絶対美味いです!

お近くの方はぜひ。

「自動車教習所で会った松原真倫の紹介」と
声をかけるとオマケしてくれるように頼んでおきました(笑)

それではまた。

2013年1月12日土曜日

松浦正浩先生「交渉を科学する」@東大UTalk

今日は東大の研究者が、東大内のカフェでトークするというイベント「UTalk」に行ってきました。(写真を見るとなぜか僕だけニヤけています。なんでいつもこうなんだろう・・・)

今日は松浦正浩先生が「交渉を科学する」というテーマで1時間講演。交渉学の基礎から入り、松浦先生が現在取り組まれている「共同事実確認」という社会的合意形成手法のお話も聞くことができました。(共同事実確認についてはこれが詳しい

「共同事実確認が成立するケースはそれほど多いとは思えないのですが・・・」という僕の質問にも、事例を交えて丁寧に答えていただきました。この手法は「場を設けることによって科学的分析の過程を明らかにする」ことが狙いのようです。僕自身の研究課題としても、社会的合意形成手法として討論型世論調査と共同事実確認の手法を比較することにも取り組んでいきたいと思います。

松浦先生がご著書『実践!交渉学』(ちくま新書)を持ってきてくださっていたのでパラパラ読みましたが、新書としては学術的な内容もしっかりと入っていて、かなり勉強になりそうでした。すぐに注文。

あと松浦先生が持ってきていらっしゃった、留学時代のハーバードの交渉学テキストがやばかった。参考文献リストとか論文とかががっちりまとめられていて、1ページ目には担当教員の挨拶文。この大学教育のクオリティを見ると留学せずにはいられませんね・・・。


最後に。先生が「MITから帰ってきて大手シンクタンクに入った。自治体の都市計画系イベントのチラシをつくる仕事が多かった。4年勤めてこのままじゃいけないと思って、仕事を辞めてMITに戻った」と仰っていたのが印象的でした。先生は、「シンクタンクは顧客が持ってきた仕事をやるところだからしょうがない」と仰っていましたが、チラシづくりはMIT帰りの人がやる仕事じゃないですよね。シンクタンク、行くの止めようと思いました(苦笑)

2013年1月10日木曜日

大学生が一人で高校の検定教科書をつくっちゃった件


大阪市立大学HPより

ノウハウのある専門系出版社が大物の研究者を何人も使って完成させていたのが教科書業界のセオリー。

それを1人の大学生が「こういう教科書があったらいいのに」という思いをもとに教科書出版までこぎつけたのが本当にスゴい!一人暮らしをする大阪から何度も文科省に出向いて調整作業を重ねたそうです。

今年の4月から工業高校の先生になるそうですが、新任の先生が自分のつくった教科書で授業するなんてかっこ良すぎる!尊敬尊敬尊敬です。