2011年10月10日月曜日

「アーカイブ」から「コンテンツ」を生み出す

みなさま、3連休いかがお過ごしでしょうか?

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僕は8日、9日と1泊2日で岩手出張にいってきました!  東日本大震災に関する2つのシンポジウムに参加することが目的です。今日はそのうちの一つ「東日本大震災の記録とその活用」というシンポジウムについてのレビューを書きたいと思います。

今回のシンポジウムは、「311まるごとアーカイブス」というプロジェクトの一環で開催されたもので(プロジェクトの設立趣旨やメンバー等についてはこちら)、主に被災者の方々が記録した震災関連の映像や画像等の記録データをいかに保存し、活用していくかがシンポジウムのテーマでした。

僕の考えでは、アーカイブ(記録を保存しておく場所)の管理は大きく3つの段階に分けられると思います。①記録をどうやって集めるか、②それをいかに公開するか、③公開されたものをいかに見 たり活用してたりしてもらうか、です。今回の記事では、特に②と③のプロセスについて、僕の専門である行政の情報公開と絡めて、書いてみたいと 思います。

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僕は「アーカイブ」とは何かを考えたときに、それは「ニュース番組」の反対の概念として理解すればいいのではないかと思っています。

ニュース番組はその時々の最新の話題を、なるべく早く、不特定多数の人に届けるというPush型モデルです。そこでは、速報性と話題の一般性が重視されます。それに対して、アーカイブは、過去の話題を、時間に関係なく、興味を持った人が取得するPull型のモデルとして理解できます。

このように考えると、「アーカイブの活用」とは、保管されているアーカイブに興味を持った人が、それにうまくたどり着き、データをうまく利用できること、と理解できるのではないでしょうか。そうであれば、アーカイブとは不特定多数の国民が利用するというものよりも、そのデータに特に強い関心を示す一部の人々(多くの場合は研究者でしょう)が利用したいときに利用できるようにしておけばよい、ということになるでしょう。

しかし、今回のシンポジウムでは、アーカイブを広く一般の国民に見てもらい、震災の記憶を風化させないためにはどうすべきか、というかたちで議論が進んでいきました。

これはもはや「アーカイブの活用」というレベルを超え、「コンテンツの発信」というレベルの議論になっています。言い換えれば、震災関係の記録資料を、特定の人がごく限られた目的で利用する「アーカイブ」に留めるのではなく、さまざまな人々が多様な方法で利用する「コンテンツ」として位置付けるべきだ、ということです。

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僕が研究している行政の情報公開ではよくある問題として、「情報を公開したまでは良かったが、公開したところで誰もそれを利用してくれない」ということがあります。

こうなってしまう原因は、①提供される情報が十分に整理されていない、②情報の受け手側にそれを活用するノウハウがない、ということに大きく集約できます。

は情報の送り手側の問題です。情報のタグ付け(分類)がしっかりされておらず必要な情報が検索に引っかからない、また、膨大な情報が未編集で掲載されるため、情報の取捨選択が難しくなっています。

これに対して②は、利用者サイドの課題です。高度な内容でかつボリュームが膨大な行政情報をうまく整理し、理解するのは大変な作業であって、そもそもそのような作業を専門としていない限り、そんなことをしている暇はないわけです。

こうした行政の情報公開の現状を考えると、震災関係のアーカイブスの公開も、同様の課題に直面する可能性が高いことがわかると思います。

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東日本大震災からまだ7ヶ月ですから、しばらくは市民の防災意識が高い状態が続き、震災情報へのニーズもあると思いますが、1年、2年と時間が立っていけばそのニーズは大きく低下していくでしょう。

そうなっていくときに必要なのは情報の送り手の側が、情報の受け手のニーズを新たに作り出す、ということです。具体的には、検索しやすい、理解しやすい、活用しやすいデータを送り出すということです。

そしてそれに加えて、ニュースの提供も重要です。ニュースの内容とアーカイブに蓄積されているデータをリンクさせる、偶然ニュースを見に立ち寄った人が、過去のアーカイブに触れる機会をつくるのです。その人が、リンクをどんどん辿って、「このニュースの背景には、こんなことがあったのか。もっとこのテーマについて知りたい」と思ってもらえれば大成功です。これがニーズをつくるということです。

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今の時代は情報が溢れています。ただ漫然とアーカイブをつくるだけでは、それは情報という大河の一滴として、そのままグローバルな情報の海へと流れ出してしまうだけでしょう。それでは、どんなに有益なアーカイブでも人々に与える影響は限定的でしょう。

しかし、戦略的に情報を送り出し、それが一度人々の琴線に響けばそれは一気に広まります。少しの工夫が大きなインパクトの違いを生み出すのです。



「神は細部に宿る」




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